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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年11月5日付
こちら情報局

国民の歴史

 ようやく、紆余曲折を経て「国民の歴史」が書店に並んだ。

 同書は、「新しい歴史教科書を作る会」の会長である西尾幹二(電気通信大学)教授に同会のメンバーが委嘱する形で「私」である西尾氏が単独執筆した超大作だ。

 総ページ数七百七十四、千七百十四円は大変読みごたえがある。

 全部で三十四章。「文明圏としての日本列島」に始まり、「人は自由に耐えられるか」で終わる。終わると言っても既に「姉妹篇」の「日本文明史(上下巻)」の刊行を平成十三年春に予定している。

 編者である「新しい歴史教科書を作る会」は平成八年十二月に発足し、会は平成十四年度春使用の中学校歴史・公民の教科書をつくるべく、今後も努力するようだ。

 会の運動方針には賛否両論、様々な意見も存在するが、子供達の未来に一石を投じるためのそのプロセスには賛意を表したい。

 一週間をかけ、ざっと読ませて頂いたが、今後論壇で議論を呼びそうなタイトルや表現が目に飛び込んでくる。今後、同書での議論とその根拠を巡り、周辺諸国や国内関係者との間で「熱い闘い」を予感させる内容だ。

 読んだ感想は、期待が大きかった分、「従来の教科書」同様、「日本人の自尊心をくすぐる心地よさ」には「あと一歩」と感じた。

 もちろん、膨大な文献を正確に記述するだけの時間的余裕がなく、「読者と同じ目線」で解ること解らないことを羅列したようだが、対象とする読者が見えてこない。

 小さい頃から複数の異文化に接したためか、記述の一部には賛同するものもあったが、同じ食材で違う料理を小出しにされても、やや食傷気味と感じてしまった。次回は、是非未来に向けた処方箋も提示して頂ければと考える。

 秋の夜長、大人の議論に参加するならば手に取って読むと良い。