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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年10月2日付
こちら情報局

人民元

 返還後の香港を訪ね、通貨危機以降の人民元切り下げ圧力に対する専門家筋との意見交換を行ってきた。現地では、どうも人民元の切り下げ機運は弱まっていると見ているようだ。その理由としては、三つ挙げられる。

 一つは、中国当局の姿勢の変化。昨年の通貨危機以降一年以上にわたる、『切り下げないのはアジア市場への貢献策である』との中国当局のアナウンスメントは、意図していた以上に外交交渉上の重要なカードとしての「切り下げ」のポジションを高めたため、逆に投機筋の標的になっていた。この構造が、欧米先進国での憶測を呼んでいたのだが、八月下旬以降、中国当局は軌道修正を行い、『切り下げを実施しないのは、中国国内にとってのメリットである』ことを強調し始め、ここに来てようやく落ち着いたとのこと。

 二つ目は、朱鎔基政権の目標である経済成長率8%を達成できないことへの反論。香港当地では、8%の成長は実質ゼロ成長であり、6%後半あたりまでは市場停滞期の調整局面ではよくある許容範囲であることが指摘されている。

 三つ目は、遅々として進まない国有企業改革。8%未達とともに、朱鎔基首相失脚のきっかけになるのではという西側の指摘に対し、改革の足がかりを何年もかけ、ぎりぎりのタイミングで実現したのだから、上出来であるという考えが支配的である。

 さらに、バブル期の水準からすれば円安基調である現在、中国を含むアジアからは円借款の返済がきついとの悲鳴が聞こえてこないなどのメリットもあるという。

 結局、中国も日本同様に動かせる戦略オプションが少ないと見れば、消極的な理由から人民元切り下げは無いと結論づけられる。

 それでも政治的要因が高まる旧正月が気がかりである。