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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年8月21日付
こちら情報局

不適切な関係

 クリントン大統領が一大決心の末、懸案のモニカ騒動で疑惑の行為につき「不適切な関係」という曖昧な表現で謝罪した。連邦大陪審での証言に続き、国民向けテレビ演説での発言だが、CNNが直後に実施した世論調査では、53%が満足と表明し、依然高い支持を得ている。国務を全うしさえすれば、敢えてプライバシーの部分は問わないとのコンセンサスが形成されようとしている。この結果は、対立政党である共和党のクリントン民主党陣営に対する追求を弛めさせる効果があり、今後「司法妨害」など、よほど大きな疑惑が浮上しない限り、一件落着の様相だ。

 歴代大統領の資質を徹底的に調査し追求してきた米国は、どうやら大統領に求める価値観や付加価値を微妙に修正しているようだ。

 日本ではどうかと考えると、首相に限らず、有りとあらゆる場面で、責任ある立場の官僚や企業トップに対し、辞任と謝意を表明させる傾向が強い。個人的な意見だが、日本は米国流の民主主義に追いつけ追い越せで、いつからか自らに強い道徳心と公正感を要求する世界有数の民族になったようだ。

 事前にお断りするが、敢えて日米両国の指導者への国民反応を持ち出して、先人達の不祥事を許そうと言っているのではない。ただ、小さい事にめくじらを立てて私生活を暴いたり、指導者としての資質や行動に影響を与えそうにない些細な事柄を掘り返すことが、長期的に有能な指導者の登場機会を減らすのではないかと考える。

 今回の騒動は、実は米国が自らの国益のためには現時点で有用な指導者を敢えて追い落とすということをせずに、危機管理の観点から態度を保留しようとの一流の計算が働いているのではと考えさせられた。