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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年7月24日付
こちら情報局

踊るマハラジャ

 タイトルで直ぐに映画のことかと解ればかなりの「通」である。今、東京では渋谷一カ所でしか上映していない。南インドの大ヒット映画が日本に上陸した。連日大入りの超満員。それほど大きくない映画館は、上映前から通路にも座って鑑賞してもらう臨戦態勢だ。

 何せ、映画産業が盛んなインドである。どんな内容かと興味津々で待ち受けていると、オープニングのテーマ・ソングに併せ、映画館のあちらこちらから手拍子が聞こえてくる。かなりの盛り上がりを見せるその様は、そうそう、アジアの映画館の乗りそのものだ。

 映画の内容は観客のテンションの更に上を行く。いきなり、主演男優の顔が登場し、スーパー・スターの文字が踊る。ひとしきりプロモーション・ビデオ並みの映像が続くのだが、山城新吾さん主演の白馬童子でも見ているような、そういうシーンが延々とである。

 ストーリーは極めてシンプルだ。強くて優しき主人公が、わがままなボンボンの家来として忠誠を誓い、幾度と無く窮地を救う。どこか、懐かしさとともに、一大活劇を見ているような、不思議な感覚に陥った。確実に大人のノスタルジーをくすぐるのだが、政治に利用される側面も見逃せない。映画が依然最大の娯楽であるためか、メッセージ的なものも盛り込まれている。主人公を演じた俳優には、政治家としての将来も約束されているようだ。

 一方、中高年の観客が古き良き時代背景を楽しむのとは対象的に、若者はパロディとしての側面を支持。全編MTV調のダンスシーンが、マイケル・ジャクソンやマドンナを連想し、ブルース・リー並みの殺陣に割れんばかりの拍手が続く。それでもオリジナルだと思わせる懐の深さがインドなのだろうか。その陽気さと慈悲深さで核開発を抑制できればと思うのだが。