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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
00年10月27日付
こちら情報局

第三国

 第三といえば、映画「第三の男」をまず思い出す。ウィーンを舞台にしたサスペンスであり、若きオーソン・ウェルズが主役だ。

 第三の男。本人がおり、相手がいれば、第三というのは曖昧な中途半端な表現として、とても便利である。だからサスペンス映画のテーマとして採用された....。

 標題は御存知我らが森首相の発言。アジア欧州会議(ASEM)での英国ブレア首相との会談のなかで、いわゆる拉致問題での日本の立場を説明した時に飛び出した。

 これには二つの問題が存在する。

 一つは、外交交渉カードとしての優位性保持の問題だ。過去にメディアで公表されているので問題なしという発想は、情報が氾濫するネットワーク社会では及第点をもらえない。いつの時点で、誰が、どのタイミングで情報を流したかにより、コンテンツの価値が決まる。IT革命を標榜する森首相であればおわかりのはずだ。

 もう一つは、その後の発言の真意を巡る答弁での迷走である。中山代議士の抗議にあい、撤回したが、一国の首相としての本質に係わりはしないか。

 さすがに「自民党の明日を創る会」などが、21世紀に向けて保守本流としてのイニシアチブを再構築する意味で、次世代から首相候補を擁立する動きを見せ、選挙を年末までに前倒しすべく動いている。

 若い世代にありがちな熱気がどこまでも素晴らしいとは言いきれないが、世紀を跨いでこのままで良いのか、ここは一つ価値観も含め変えて出直す時期に来たというのが国民感覚でもあろう。

 本紙二面の「森首相の一日」での答弁ともいえぬ答弁を読むのが筆者の日課となっているが、ウィットに富んだ語り口で煙に巻くわけでもなく、駄々をこねる様こそが世紀末であると言えば世紀末だ。