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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
00年3月17日付
こちら情報局

マグノリア

 本年アカデミー賞での前評判が高い「マグノリア」を上映初日に見に行った。

 週末の早朝にも係わらず、長蛇の列。早起きは三文の得とは言え、同じ心境で一番乗りを図ったヒトも多い。

 個人的な感想だが、この映画はイケてる。ちょっと大げさな表現だが、心に残る。人生は何かを問いかけ、考えさせる映画である。

 マグノリアは、南カリフォルニアのサン・フェルナンド・バレーにある通りの名前。ミシシッピ州やルイジアナ州など米国南部の州都の花であり、物語の象徴だ。

 南カルフォルニアのほんの日常的な出来事を9つ張り巡らし、それぞれの断片が点となり線となりやがて一つの結末に向かって突き進む様を描いている。

 監督は彗星のごとく現れたポール・トーマス・アンダーソン。若干30歳。軽快なテンポと結末でのあっと驚く映像で人々を惹きつける手法は前作で二作目の「ブギーナイツ」を上回る出来映えだ。

 病に伏せ死期が近づく大物プロデューサー、その介護を任せられる介護士、金目当てに大物プロデューサーと結婚した後妻、捨てられた前妻の息子、プロデューサーの作った「ちびっ子クイズ番組」の司会者、司会者の娘、娘に想いを寄せる警察官、元ちびっ子天才クイズ王、現在の天才ちびっ子などなど。

 それぞれが悩みを持ち、過去と決別したい。そんな彼らの気持ちとは裏腹に、事態は段々と悪い方へと向かう。が、やがて天と地がひっくり返り、収斂する。

 その手法は監督の言葉にあるように、叙述詩であり、スペクタクルである。古ぼけた70年代の古き良きアメリカのスタンダードをミレニアムの今に甦らせる。

 若き天才監督が40代後半から50代の青春時代の描写に挑戦し、見事にもぎ取った瞬間でもある。