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こちら情報局


「言いたい放談」
『東京新聞』
04年12月17日付
こちら情報局

飯島夏樹さん

 末期がんを患うプロウィンドサーファーの飯島夏樹さん。
 
 小説「天国で君に逢えたら」は、この夏に新潮社から発売され、早くも15刷。ネット上の専用サイトに掲載された日記にはアクセスが殺到している。
 
 その彼の物語が、「ザ・ノンフィクション(フジテレビ)」に「天国で逢おう」と題して登場した。
 
 それにしても、心に染みた。
 
 若くして世界を狙えるポジションに達したプロサーファー。素敵な女性と結婚し、グアムに移り、本格的なウィンドサーフィン・スクールをオープンさせ大成功する。
 
 長女が生まれ、双子の男の子、さらに男の子と、4人の子供にも恵まれる。絵に描いたような成功物語を突然の病が襲う。
 
 事業家としての夢をひと休みし、全ての事業を売り払って帰国。家族総出での闘病が始まる。
 
 画面は彼の病室での様子に迫るが、今のテレビ技術では、辛さのプロセスは見えにくい。それでもカメラが捉えたベッドのタオルから、その壮絶さが伝わる。辛い治療のあとの医師らへの感謝の言葉。
 
 普段なら、あまりに悲しい実録だとチャンネルを切り替えてしまうタイミングだが、最後まで観つづけた。
 
 それは彼を包み込む暖かい家族愛が、苦痛の向こう側にある幸せとは何かを描き出していたからだろう。
 
 夫婦が出合った、サーフィーンのメッカである御前崎への一家揃ってのドライブ。そこに集まった昔の仲間。手術跡を見せながら、明るい笑顔で振舞う主人公。
 
 残された体力で、思い出の海に漕ぎ出し、波に乗った。ほんの数秒ではあったが、海の神様が彼を再び波に乗せたのだとわかった。大自然の懐の深さに感動した。
 
 家族は今、ハワイに移住し、彼の最期を、素晴らしい時間を分かち合うために過ごしている。静かに、そして同じ気持ちで、ともに愛した海を見つめる日々。
 
 プロだから言える言葉の数々。画面の向こうに虹が見えた。