【現代リスク】台湾レジャー施設での爆発事故

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台湾のレジャー施設のイベントで、粉じん爆発が発生。500人超の被害者の大惨事となった。

隣国での混乱は、マネジメント不足で発生したものなのか。

 

 

実は日本でも、身近で起こりうる事象であり、国内イベントも同事故をきっかけに、既に中止となったものもある。

以下、事件事故の概要と、想定しうる企業や個人への潜在リスクを分析する。(2015年6月30日、11:00現在)

 

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≪事件事故の概要≫

台湾北部の新北市にある遊園地のプール「八仙水上楽園」で、2015年6月27日夜、粉じん爆発が起こり、500人以上が火傷を負った。

粉じん爆発の発火原因は究明中だが、会場で行われていた音楽イベントで大量にまかれたカラーパウダーに引火したと見られる。パウダーの原材料は、トウモロコシの粉に着色したもの。

パウダーには、火気の傍で使わないように注意書きがしてあり、主催者も2年前に警察から使用上の留意など警告を受けていたことから、危険性を認識していたのではないかと現地メディアが批判している。

事故発生直後には、140台の救急車が出動し、458人(重傷97人,輕傷361人)を27の病院へ搬送した。なかには、救急車の到着を待てずに、自力で病院に駆けつける人も見られた。(注1:事故直後の搬送状況(地元メディアの報道))

邦人女性2名も火傷を負っているが、命に別状はない。他に、香港や中国、シンガポールなどからの観光客や留学生らも事故に巻き込まれた。

事故現場には、タバコの吸い殻やライターが散乱。他に、音響設備の過熱、照明器具(投光器)の過熱などが、火だねとして指摘されている。

なお、粉じん爆発は、①火だね、②閉鎖された空間。屋外でも空気が流れない場所、③酸素などの供給、④散布による空気接触、⑤可燃性粉塵(ここではカラーパウダー)で発生すると現地専門家が指摘している。

 

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≪イシュー(想定しうる潜在リスク)≫

事故の原因は、今後徐々に明らかにされるが、企業や官庁、個人へのリスクマネジメントにどのような影響が考えられるか。

(1)イベント主催会社の危険性認識

今回の事故について現地では、管理側の手抜きなどがメディアで報じられているが、日本のイベント会社も驚きを持って事態を受け止めている。

実際、日本で開催されるマラソン大会やライブコンサートなどでも、カラーパウダーを吹き付けることが行われている。(注2:今回の件を受けて、ローソンHMV エンタテイメントでは6月29日、7月開催予定の「Coloa Me Rad HOKKAIDO」(カラーパウダーを浴びながら走るイベント)の中止を決定」)

台湾でのイベントは水を抜いたプールで行われ、天井もない解放された空間だったが、観客が密集し、粉じんが足より下にたまっていくことで、密閉状態がつくられたとみられる。

主催者側は、イベントを盛り上げるためにも、より多くの観客が集積するよう演出する。観客が集まれば集まるだけ儲かるし、イベントは成功したことになる。このあたりの歯止めをどうするか、空間(スペース)に詰め込む人数は、時々、酸欠を引き起こすコンサートからも、熟慮すべき問題となろう。

 

(2)主催者、プールを貸したテーマパーク側の補償問題

テーマパーク側は、イベント会社に場所を貸し出しただけとし、事故発生直後、深夜の会見で、自社(テーマパーク)側には過失はないと説明した。

一方のイベント会社の責任者は、当日の風が強すぎたとメディアの取材にコメント。その後、主催者側の責任者や舞台演出家、機器操作の責任者らが警察に拘束されている。

治療費などを含めた被害者への補償はこれからだが、保険会社の保険範囲だけでは支払いきれない額に上る。

夏を迎え、国内でも各種大型イベントが予定されているが、マネジメント側の対応、保険や補償などの再考も求められよう。

 

(3)病院搬送と病院の受け入れ態勢

新北市市長は事故後、近隣都市へ救援を要請している。

救急車の手配が追い付かず、個人が搬送するケースもあった。1万人規模のイベントで500人の負傷者が出たが、これだけで病院が満床になった点などが現地メディアで指摘されており、さらに大きなイベントでは、どう対処するかが問題となっている。

また、若者の悲惨な火傷に遭遇し、病院スタッフにも心のケアが必要との指摘もある。

 

(4)コミュニティでの自律システム

台湾では兵役があるため、予備役を含め、緊急時に動けるトレーニングが実施されている。また、ボーイスカウトやガールスカウト、学校での教育啓蒙を含め、コミュニティへの貢献意識が高いといえよう。

他人をケアする姿勢は、東日本大震災での多額の寄付、ボランティアで来日し、静かに清掃をする台湾の若者らの行動から見て取れる。

はたして、緊急時に、一定の知識を持ち、素早く動ける体制を取れるのか。迫る首都直下地震に向け、トレーニングの仕組み、システム化が求められよう。

 

(5)総統選挙への影響

新北市は、国民党(与党)の朱立倫氏が市長を務める。市長は現在、国民党主席でもあるが、2010年の市長選では、次期総統選の野党候補となる蔡英文氏を破って当選している。(注3:2010年10月に直轄市に昇格した新北市。同年11月末に行われた選挙で、蔡氏は惜敗。)次の次への自身のポジションにも影響してこよう。

事故への対応、原因究明と罰則などを有権者が監視しているなか、病院を見舞った馬英九総統が失言した。

火傷を負った被害者に、「当日は、短パンだったの?」と声をかけ、プールでのイベントにも関わらず、まるで、長そで長ズボンならば被害を軽減できたのでは?とも受け取れる発言に、メディアは批判的な報じ方をした。

被害者のバックグランド、残された家族の状況が報じられ、政府の対応に厳しい目が向け始められる。これらは、来年(2016年)1月の総統選挙へも影響を与える。

 

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≪ 脚注 ≫

注1:傷患自行就醫 馬偕醫院爆滿 (中華電視公司、2015/06/28 06:56 )http://news.cts.com.tw/cts/general/201506/201506281629919.html#.VZKyfpUVgid

 

注2:今後の「Color Me Rad」の開催に関するお知らせ(株式会社ローソンHMV エンタテイメント、2015 年6 月29 日PDF)http://colormerad.info/pdf/20150629release.pdf

 

注3:5つの直轄市の市長選挙で国民党は3議席、民進党は2議席を獲得(台北駐日経済文化代表処、2010/11/29)http://www.taiwanembassy.org/JP/ct.asp?xItem=170768&ctNode=1453&mp=202

 


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